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【プロフェッショナルパートナーの素顔】気候変動を「正しく知って」「正しく恐れて」ほしい

日本気象協会を支える気象・環境・防災のプロフェッショナルを紹介する「プロフェッショナルパートナーの素顔」。今回は、異常気象が日常ともいえる状況に危機感を抱く、気候変動に関するプロフェッショナルパートナーが語ります。

工藤 泰子(くどう たいこ)
日本気象協会 環境・エネルギー事業部
1994年3月に入社。入社後しばらくは主に野外での観測を担当し、近年は気候変動についての知見を解説するパンフレットや資料の作成を担当している。気象予報士、博士(理学)、技術士(建設部門 建設環境)。
プライベートでは、5歳と生後6ヵ月の孫がいるワーキングマザーならぬ、ワーキングばぁば。

学生時代は”寒い夏”、近年は”暑い夏”がテーマ

青森県むつ市という、自然が豊かで美しくもあり、厳しくもあるところで育ちました。歴史的には極寒と食糧不足で人々が命を落としたという悲しい出来事があった土地でもあります。冬は当然寒さが厳しいのですが、夏も時折冷夏に見舞われ、夏でもストーブが必要なほど寒いこともありました。稲の穂がこうべを垂れることなく、突っ立ったまま枯れていきます。そんな田んぼを見るのは、本当に胸の痛いものでした。
そんな経験もあり、大学院では、この「寒い夏」を自分の研究テーマにしました。
 
日本気象協会に入社してからは、しばらくは野外での観測を担当することが多かったです。その場所特有の気象現象を解明するための観測を設計できることは私にとってまさにワンダーランドでした。
今でも覚えているのはイカ釣り漁船に乗り、船に観測器を取り付けた10メートルほどのポールを立てて風速や気温などを観測し、海上の「熱収支解析」を行ったり、高速道路が通る谷の断面の風の状況を観測したりしたことです。
当時は、服装のデフォルトが作業着といってもいいほど観測ばかりしていました。
 
近年は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の広報資料作りなど、気候変動について分かりやすく解説するパンフレットや資料の作成を担当したり、熱中症対策に関する仕事など「暑い夏」に関連する仕事を多く手掛けています。

工藤さんが作った資料



■キーワード解説 ― IPCCとは?

気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は、世界気象機関(WMO)、国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。2021年には8年ぶりに自然科学的根拠についてまとめた報告書(第6次評価報告書[AR6])が公開される。この報告書は 66 ヵ国 200 名以上の専門家が参加し作成された透明性が高いもので、気候変動の現状を把握するための基礎テキストのようなもの。
日本気象協会は2011年~2014年は第2作業部会(影響・適応・脆弱性の分野)の国内支援事務局を、2017年~現在は第1作業部会(自然科学的根拠の分野)の国内支援事務局を担当。


IPCCの報告書の内容はとても大切なことです。でも本当に難しいです。なので、専門的な知識を持たない方やお子さんが少しでも入っていきやすいように、書き方やイラストを工夫しました。

地球温暖化は地球のエネルギーバランスが崩れている状態

「地球温暖化」と聞くと、気温の上昇のみをイメージする方が多いと思います。実際は気温の上昇だけでなく、エネルギーバランスが崩れている状態を表しています。
地球温暖化が語られる上で「異常気象」や「気候変動」という言葉もよく耳にしますが、まずは「気象」と「気候」という言葉について説明します。
 
「気象」は日々起こっている天気のことです。「気候」は長い期間で見た、暑い・寒い・雨の降り方などを平均化した土地ごとの大気の状態をいいます。学問的には過去30年の平均ですね。
 
地球が温暖化していなくても、気候には自然の変動があり、たまに「異常気象」も出現するといいます。
これまで人間の一世代、だいたい30年に1度起こる現象を「異常気象」と呼んできましたが、最近は「数十年に1度」クラスの大雨や猛暑が頻繁におこり、「異常気象」が「日常」ともいえる状況になっています。
そういった事情もあって、近年は『極端な気象、極端な気候』という用語が使われるようになったのだと思います。
 
この「極端」を日常化させないためには、脱炭素化によって温暖化を食い止めることが必須なのです。

何を達成するためにこの仕事をしているのか

仕事をしていく中で、問題が出てきたりすると心がぐらぐらしますが、「そもそも何を目指していたんだっけ?」と、迷ったり不安になったら「何を達成するためにこの仕事をしているのか」という原点に帰ることを大事にしています。
 
最近は仕事の主担当は後輩に任せ、私は「中の人」に徹しています。
 
大量の情報があふれかえっている昨今ですが、マニュアルや他の人の意見に依存するのではなく、「自分の考えを自力で組み立てられる力」を後輩にはつけてほしいと思っています。そして『3人寄れば文殊の知恵』とは本当のことです。ホモ・サピエンスは、コミュニケーションとチームワークで脳を発達させ、生き抜いてきたと言われています。「チーム力」を育て、私たちにそもそも備わっているこの特性を活かしてパワーを生み出してほしいと思っています。

小さなステップを踏み出すことで、本物の自信と希望を持てるように

今、世界は「まさか」の時代と言われています。「まさかこんなことが起こるなんて考えたこともなかった」といった出来事が多くなり、その「まさか」が頻繁になり、さらに激甚化、広域化してきています。そんな時代になって、最近感じるのは「私たちは分かち難くつながっている」ということです。良くも悪くも、否応なく、人・自然・社会、過去・現在・未来がつながっています。問題解決のためにはもっと大きな広がりで見て、異分野が連携していく必要があると痛感しています。
これからの大変な時代、私たちはなるべく分かりやすく情報を発信するので、受け取る側も地球で何が起こっているのか知ろうとしてほしいです。そして、小さなステップでもいいので勇気を出して踏み出してほしいと思っています。小石でも投げ込めば波紋が広がり、伝播します。
行動を起こすことで苦労することもあるかもしれませんが、それを乗り越えることで本物の自信と希望を持てるのではと信じています。
 
* 記載内容(役職、数値、固有名詞等)はすべて取材時の情報です

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