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「どこへ撮影に行くかを決めるのは、気象条件が9割以上」―日本気象協会 オリジナルカレンダーの風景写真家 星野佑佳さんが語る、絶景と出会うための気象情報の活用法

日本気象協会は「Harmonability~自然界と調和した社会の創生~」をメッセージとして、毎年美しい風景写真を掲載したオリジナルカレンダーを制作しています(ごめんなさい、非売品です)。2021年版からは風景写真家として活躍されている、星野佑佳さんに風景写真をご提供いただき、オリジナルカレンダーを展開してきました。
 
今回の日本気象協会 公式note「Harmonability style」では、風景写真家 星野さんに天気との向き合い方や2024年版の日本気象協会 オリジナルカレンダーに提供してくださった写真の撮影秘話などをインタビュー!後半では、気象予報士と「雲海の撮影」について語っていただきました。

写真家 星野佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ。写真家、フォトエッセイスト。同志社大学法学部卒業。2000年から国内外を放浪しながら撮影を開始。2005年より地元・京都の風景や風物詩の撮影を手掛け始める。2018年、隔月刊『風景写真』誌に連載中のフォトエッセイを集めた『撮り旅(明日、どこ行こう)』を上梓。Nikonのカタログや一般誌、書籍、テレビなどでも多数の作品を発表している。季節の情報も豊富と、全国を飛び回る撮影の日程計画に、日本気象協会の天気予報専門メディア「tenki.jp」のアプリを活用している。


気象条件が9割以上…天気予報を確認し悩みまくる

どこへ撮影に行くかを決めるのは、気象条件が9割以上・・・というほど、重要です。
風景写真のドラマチックな情景は、日の出前後が勝負です。
現地にいれば、肌感覚で察知できることもあるのですが、私の場合、真夜中に出発し、遠方へ撮影に出かけることも多いので、天気予報が命綱です。
 
特に雲海や霧氷などは、気象条件の見極めをしくじると、せっかくはるばる撮影地へ赴いても、収穫ゼロになりかねません。
例えば、雲海を撮りたい場合、付近に大きな河川などの湿気の材料がない場合は、数日内に雨が降っているのが必須条件となる撮影地もあります。
そのうえで、当日は晴天で、日中と夜の気温差が大きく、風は無風か弱い風であること。
地域によっては風向き(いくら条件があっていても北風ならダメ、南風が良いとか)も判断基準になります。
また、気温によって雲海のタイプも変わり、この場所は、10℃以下にならないと、良い雲海が出ないとか、気温がマイナスになるとダメとか、撮影地によって色々と条件が変わってきます。
 
なので、秋から冬の雲海シーズンやダイヤモンドダストが期待できる厳寒期は、明朝、どの撮影地へ行くかを決めるため、夕方から夜にかけてノイローゼのように何度も天気予報や各地のライブカメラを確認し、悩みまくります。

天気予報だけではない、tenki.jpの「道路の気象影響予測」や「季節情報」なども活用

1時間ごとの気温、湿度、風速や風向きの予報は、しょっちゅうtenki.jpでチェックしています。それをもとに、撮影地、撮影日を決めています。また全国の警報・注意報の出ている県が、一覧でパッと確認できるのも助かります。〇〇県と△△県と、どっちに行こうか迷っているときなど、濃霧注意報(○~△)、雷注意報(△)、強風注意報(×)、乾燥注意報(×)、霜注意報(△)などをチェックします。

遠方に行くこともあるので、いわゆる「天気予報」だけではなく、「道路の気象影響予測」も、リスクのある方面がわかりやすく、助かっています。途中の道路状況の影響で、目的地に辿りつけなかったり、到着が遅くなったり(日の出に間に合わなかったり)したら、元も子もないので…。特に春秋は降雪のリスクもあるので、車で長距離遠征の場合は、tenki.jpの「道路の気象影響予測」は欠かせませんね。

他にも登山はしないのですが、車でも行けるような標高の高い山で朝日や夕日、星空、霧氷、雲海などを撮ることも多く、「山の天気」は重宝しています。下界とは天気が違いますし、特に風速は(下界と)全く違うため、三脚が揺れるほどの強風や体感温度の低下のリスクも事前に確認できます。

気象予報士のポイント解説(日直予報士)」は、全体的な天気状況を知るのに助かっています。デスクワークがたてこんでいて、明日撮影に出るべきかを迷っているとき、まず、ポイント解説を読んで、「これは行った方がいいな」「明日は家でデスクワークに励もう」など、判断するのに便利です。

そして「季節特集」の「桜開花・満開情報」や「紅葉見頃情報」を、撮影の計画を立てるのに役立てています。
シーズンが始まる前に、今年の傾向(気温、早い遅いなど)を教えてくれるのも、計画をたてるのに役立ちます。
県ごとに紹介されている名所(撮影ポイントになりそうな)も充実していて、ここで初めて知った場所もあります。また、撮影ポイントごとの天気はもちろん、季節の見頃画像や現地情報(地図、問い合わせ先、最寄りIC、駐車場情報など)や周辺のお出かけスポット情報も助かっています。

tenki.jpでは過去の天気も調べられるので、撮影地の最適気象条件を探るためのデータ収集などに役立てています。

2024年版 日本気象協会オリジナルカレンダー「穏やかな季節の風趣」 撮影エピソード

2024年版 日本気象協会オリジナルカレンダー
上段左から 1-2月、3-4月、5-6月
下段左から 7-8月、9-10月、11-12月

◆1-2月:朝の美ヶ原、思い出の丘/長野県松本市
美ヶ原の思い出の丘から、朝日に染まる霧氷を撮影しました。
雪が深く、スノーシューでラッセルしながら、見晴らしの良い場所まで歩きました。風が強い日は、丘の雪面に波の模様(シュカブラ)ができ、良いアクセントになります。
tenki.jpの1時間予報で、前日から当日朝にかけての風速や風向き、天気、気温、湿度をチェック。
前日に風が強く、シュカブラが出来た状態で、当日の朝にかけては、湿度が高く、気温がマイナス10℃以下の晴天が好条件。無風なら霧氷が期待できますが、風が強いとエビの尻尾風の樹氷になることもありますが、無氷のリスクも大きいです。

◆3-4月:白木峰高原から見渡す雲仙岳と有明海/長崎県諫早市
諫早湾を望む白木峰高原。春には菜の花と一本桜のコラボが絵になります。
tenki.jpで天気予報、風速をチェック。
朝焼けの薄暗い時間帯は、スローシャッターでの撮影になるので、なるべく風のない朝を選びます。
晴天の朝は、左から差し込む朝日で桜がオレンジ色に染まります。
日中の青空バックも素敵です。夜は星もきれいですし、月齢によっては、明け方、天の川が見えることもあります。

◆5-6月:美山町、かやぶきの里の紫陽花/京都府南丹市
風情あるかやぶき屋根の家々に、今も人々が生活している、かやぶきの里・美山。
梅雨時の道沿いには、紫陽花が咲き誇ります。紫陽花がしっとりと濡れた、雨や雨上がりがお勧め。
晴天の強い光より、曇りの日の拡散光の方が、花が美しく撮れるため、天気予報は晴天より曇りや雨の日を選びます。
雨で背景の山に霧がたなびくこともありますが、風が強い時は、霧が出にくい上、レンズに水滴がついたり、花が揺れたりするので、避けています。ここは、初秋のソバの花や積雪時も絵になります。

◆7-8月:石垣島から臨む積雲と虹/沖縄県石垣市
石垣島で夕日を撮るために車を走らせていた時、あまりにも見事な積雲に気づき、見晴らしのよいポイントを探して撮影。よく見ると、積雲の下に虹が!
虹は、雨などの高い湿気が残る状況と強い順光が必須。
せっかく虹が出ていても、背景がどんよりしていたりすることも多く、これまであまりターゲットにしてこなかった現象なのですが、ダイナミックな白い雲と青い海の隙間に架かる虹は、本州ではなかなか見ることのなかった光景で、気持ちが高ぶりました。

◆9-10月:磐梯吾妻スカイライン・天狗の庭の紅葉/福島県福島市
北日本の山と私の住む京都市内では、紅葉の見頃が1カ月以上違うため、実感がわかず出遅れがちなので、見頃情報などはマメにチェックします。
この時は、3泊分のスケジュールが空いたので、tenki.jpの紅葉見頃情報を参考に、磐梯吾妻スカイラインへ行くことに。
「山の天気」で周辺の山々の天気をチェック。山には登りませんが、全体的な状況を把握。
到着2日目には、山は不安定な天気になりそうだったので、初日早朝から撮影できるよう、出発を急ぎました。
おかげで穏やかな秋の光に輝く山紅葉に出会えました。翌日からは雨と晴れが混ざり合う複雑な天気でしたが、それはそれで面白い作品が撮れました。

◆11-12月:冬の日和山海岸から眺める後が島/兵庫県豊岡市
日和山海岸の滝雲&毛嵐は、天気予報を精査しないと巡り合えない難易度の高い情景です。
豊岡市は日本の中でも、霧が多い地域と言われますが、豊岡市街の霧や来日岳の雲海は頻度が高いものの、霧が城崎温泉を越えて日和山海岸まで達することは少なく、天気、湿度、風向き、気温などの条件が揃わないと絶景は望めません。
また、竜宮城のある 後が島 が毛嵐に包まれるのは、気温の低い冬ならではの魅力。右から流れてくる滝雲が海面まで達するのも、気温が一桁台まで下がる冬期です。(春も滝雲は出ますが、海面に達するまでに消えてしまいます)

次回からの成功率が高くなるよう、気象データを取っておく

風景写真を撮る方は、天気予報を確認して、撮影に出かけることが多いと思います。
お目当ての撮影地で、気象状況がバッチリだった時、逆に期待通りにならなかった時に、その時間の少し前からの予報や、広いエリアの雲の様子、天気図などを記録(スクリーンショットや写真に残しておくことを)しておくと、その撮影地のクセをつかむのに役立ちます。
ここは北風だとダメだなとか、気温10℃以上だとホワイトアウトしてしまう場所だとか、現地の天気はもとより、〇〇㎞離れた東の方角が晴れていないとダメだとか。
 
自然相手だから思い通りにならない・・・と、諦めるのではなく、データを取っておくと、次回からの成功率が高くなるように思います。

星野カメラマンから雲海に詳しい気象予報士へ質問!

星野さんから雲海にまつわる天気予報の見方などについてご質問をいただきました。そこで今回は日本気象協会の北海道支社で働くベテラン気象予報士の一人、加賀谷英和気象予報士に回答してもらいました。加賀谷気象予報士は、北海道内のとあるリゾートホテル向けの「雲海予報情報」を担当しているため、日本気象協会の中でも雲海に詳しいメンバーなのです。

Q. 1時間予報で書いてある湿度は、地表の湿度でしょうか?
以前、湿度が高い(90%超え)、無風の朝に、期待していた霧や雲海が出ず、愚痴っていたら、知人が「天気予報の湿度は、温度差から計算された地表の湿度で、雲海はもう少し高度のある所に湿度がないと発生しないから」と言われたことがあります。
確かに、雲海の日って、下界が霧に包まれていることもありますが、そうではなく、下界が曇り(その雲が上から見れば雲海)ということもあります。
予報の湿度は、どの高度の湿度なのでしょうか?(高度によって、湿度の差は大きいのでしょうか?)

【加賀谷気象予報士の回答】
天気予報における湿度計算方法自体は、(独自のノウハウもあり)詳細には言えませんが、高度は、予測地点の地上(地表)になります。

Q. そして、もう少し高い高度の湿度を知るのに、良い方法はありますでしょうか?
(山の場合は、山の天気で調べますが、そこまで高くない山や高台などの場合)

【加賀谷気象予報士の回答】
私たち気象予報士が雲海予報を行うときは、数値気象予測モデルなどで求められた上空の湿度の値を直接参照して作業行っていますが、残念ながらこの値は、tenki.jpなど、一般向けのサイトでは通常、配信されていません。
この値は、気象予報士向けなどの専門サイトで公開されている例はあるようですが、現状、一般の方がわかりやすい形で入手するのは困難に思います…。

Q. 経験的に、風向き(海のある方角からの湿った風が、弱く吹いている状態=湿度あり)を参考にしています。山脈のある方角からの風向きの場合、予報の湿度が高くても、雲海にならないイメージがあります。そういった感覚でいいのでしょうか?

【加賀谷気象予報士の回答】
一概には言えませんが、肌感覚として、そう捉えても悪くないと思います。海のある方角からの湿った風は、雲海の発生や維持につながります。その反面、山脈からの方角からの風は、吹き下ろしの風になる場合が多いと思います。吹き下ろしの風(下降気流)は、一般的には雲を消散させる方向に働きますし、乾いた風になって入ることは多いと思いますので、より雲海が発生しにくい方向に作用する場合が多いのでは、とも思います。

Q. 雲海を撮りに行く時に、夜中の早い時間帯から雲海が出てしまうと、朝焼けの時間帯にかけて雲海が消えてしまうことがあります。 
(朝日が昇り気温が上がると、再び、雲海になることもあるのですが、そのままカラカラの朝を迎えることもあります。)
夜、夜明け前、日の出の時間帯で、気温や湿度、風が大きく変化している様子もないのですが、あまり早い時間(真夜中)から雲海が出ると、湿気を使い果たしてしまうのでしょうか?
天気予報で、それらを見極めるコツはありますでしょうか?

【加賀谷気象予報士の回答】
場所や時季によって状況が変わると思うので一概には言えませんが、例えば、盆地のように山々に囲まれた所で発生する雲海の場合、気象条件が大きくは変わらない状況といえども、日の出を迎えるにあたって徐々に気温は上がってくるので、その上がり方によって、雲海がそのまま残る場合と消散する場合に分かれるかもしれません。
その場合は、天気予報を見たときに早い時間から気温が右肩上がりに上昇し続けたり、上がり方が速い見込みなら雲海は早めに消失、気温がほぼ変わらなかったり下降の時間が長い見込みなら雲海が維持される時間が長い、という判断はできるかもしれません。

また海から入る霧や湿気(水蒸気)に起因する雲海の場合だと、湿気(水蒸気)の供給が持続するかも要素としてはあるかと思います。
例えば、先のご質問にもあった、山脈からの方角からの風が続く場合、湿気(水蒸気)を使い果たしてしまうこともあるでしょう。
その一方で、海のある方角からの湿った風の場合だと、(気温の変化にかかわらず)雲海が長く持続することも期待できると思います。この場合には、天気予報の風向で目安を付けられると思います。

今回の日本気象協会 公式note「Harmonability Style」では、初めて日本気象協会のメンバー以外の方にご登場いただきました。星野さんが写真撮影のために気象データをフル活用していることをお聞きし、編集チームは驚くと同時にとてもうれしい気持ちでいっぱいになりました。日本気象協会 オリジナルカレンダーにご提供いただいた素敵な写真の撮影エピソードなど、たくさんの貴重なお話をありがとうございました!
 
日本気象協会オリジナルカレンダーをお手元にお持ちの方は、ぜひそれぞれの風景の撮影エピソードに思いを馳せながら、各月の写真をお楽しみいただけたら何よりです。
 
今後も日本気象協会 公式note「Harmonability style」ではさまざまな情報をお知らせします。どうぞご期待ください!

日本気象協会について詳しくはこちら
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