勉強だけが目的ではない!社会人留学の魅力
日本気象協会には、政策研究大学院大学(以下、GRIPS)の修士課程国内プログラム(公共政策プログラム 防災・危機管理コース)への社会人留学を行う社内公募の制度があります。2015年度から始まったこの社会人留学制度は、会社に籍を置いたまま大学院に通うことができるのがポイントで、仕事に必要な知識を学ぶための機会としてこれまでも多くの日本気象協会職員が留学を経験しました。
GRIPSは学生の半数以上が海外からの留学生、日本人学生の多くは社会人留学生という、一般的な大学とは異なる特徴があります。修士課程のプログラムを1年で実施するという濃密な一年間を過ごしますが、それだけに、学生生活の思い出や学びも濃縮されたものになります。
今回の日本気象協会公式note「Harmonability Style」では、GRIPSへの留学経験を持つ職員の中から6名に集まってもらい、留学のきっかけや思い出などをお聞きしました。
社会人留学 経験者
――― そもそも、皆さんはどうして社会人留学をすることになったのでしょうか
(戸谷)仕事で自治体の水防対応(水害への対策)を支援してきましたが、繰り返し発生する水災害への対応には課題を抱えていました。留学することで、職場を離れて国や自治体の基本事項を改めて学習することや、研究活動を通して政策立案の過程を経験することができ、これまで以上に現場を理解して仕事に取り組めると考えました。また、GRIPSの同級生には自治体で働いていた方もいるのですが、そういった皆さんとの交流を通して現場への理解を深めるとともに、修了後もそれぞれの立場での協力し合える関係が魅力的だと感じました。
(宮内)日本気象協会は学生時代から気象などに関する研究をしてきた方も多いため、特に専門分野を持たない私もこれを機会に職場で取り扱うような分野について学び、少しでも知識をつけて今後生かせていけたら仕事の幅も広がるのではないかと考えて、立候補しました。
他にも、自ら手を挙げた人、上司にキャリアプランの選択肢として社内留学を勧められてなど、きっかけは人それぞれであることが分かりました。
――― 留学中に印象的だったエピソードがあれば教えてください
(村上) 海外には短期で1度しか旅行したことがない私にとって、外国人留学生と交流ができたのは有意義でした。特に印象に残ったのは、留学生と合同の忘年会を運営するにあたり、ハラル食を準備したことです。イスラム教徒の方が参加する場合にそういったことを考慮する必要があるのは知識としては知っていましたが、実際に対応するのは初めてだったので、私にとっては特に印象に残りました。
(齋藤)留学中、熊本地震が発生し、学生有志で被災地ボランティアに行ったことです。熊本地震は、2016年4月14日に前震、16日に本震が発生しました。GRIPSに入学してすぐでしたが、同じ防災危機管理コース、インフラコースの有志数名で、4月28日から29日(30日は予備日)にかけて、被害の大きかった、阿蘇方面、益城町、熊本市内の視察と、鹿児島大学の災害復旧支援団体の協力を受けて、現地ボランティアに参加しました。発災間もない段階で、実際に被災地の状況を目の当たりにしたことが、非常に印象に残っています。
(戸谷)私も平成29年7月九州北部豪雨の被災現場を視察したことが印象に残っています。崩れた大きな斜面と土砂の量や、使えなくなってしまった小学校等を実際にこの目で見て、私自身の仕事がこのような大きなスケールの被害と向き合っていることを身をもって体感しました。各現場では、大学院の先生や学生を交えて、国や県、市町村の最前線で活躍される方々との意見交換を行いました。自然災害について多様な立場や職責、価値観を理解することができ、とても貴重な経験となりました。
他にも、留学中のエピソードとして「筋トレで10kg痩せました!」という方も。GRIPSにはシャワー室付きトレーニングルームがあり、他の学生との良いコミュニケーションの場にもなっていたそうです。
――― 久しぶりの学生生活は楽しいことばかりではなかったと思います。大変だったことも教えていただけますか
(服部)色々ありますが…ひとつ挙げるとすると、研究をしっかり進めつつ進捗を報告するのが大変でした。定期的に研究の進捗をコース所属の先生方に説明するのですが、ゼミでは鋭いフィードバックを受けることがあります。具体的には、研究の意義、分析の手法、データの理解に弱い部分があると問題点を指摘されて改善や軌道修正をするようにアドバイスをもらいます。正しい方向に進んでいても説明が明確でないと、厳しいコメントが返ってくることもあります。データ・エビデンスを確認して、正しい手法で検証し、わかりやすい説明をするのは研究に限らず仕事でも必要な能力ですが、その部分をだいぶ鍛えられました。
(山本)私は国・行政機関における物事の決め方、社会の仕組みを学ぶ場であったので、基礎知識として「行政とはなにか」から学ぶ必要がありました。
――― 皆さんが口々に苦労した…と話していたのはやはり、修士論文の執筆。
(村上)やはり修士論文の執筆です。論文は対外公開が前提になるので、社外秘の最新技術を盛り込むことができません。一方、すでに知られている情報を繋ぎ合わせるだけだと質を上げにくく、そのバランスを取るのが難しかったです。また、日本気象協会は民間企業なので、普段の仕事では採算性を考慮することが習慣として身についていましたが、論文執筆中は、採算性を注視することよりも新技術を積極的に提言することが求められ、そのギャップに最後まで戸惑いました。
テーマは「アンサンブル気象予報の鉄道分野への活用に関する研究」にしました。留学直前に担当していたのが道路・鉄道分野で、その分野に興味関心があったので、道路または鉄道を対象にすることは決まっていました。道路・鉄道の中でどのような分野にするのかは、かなり悩みましたが、鉄道の計画運休への関心が高まっていること、その割には論文化された先行研究事例は少なく、研究する価値が高いと思い、このテーマにしました。
(宮内)私は「台風時のWeb アクセス分析からみる防災気象情報の伝え方に関する研究」がテーマでした。私が考え付くようなテーマは先行研究をすると、大抵それは先人が必ず思いついているものでした。そこで、日本気象協会の天気予報専門メディア「tenki.jp」のデータを生かせば今までに絶対にない研究になると思ったこと、また、私は初の防災部署以外からの出向者ということでメディア・コンシューマ事業部ならではの研究がしたいと思い、日本気象協会の先輩方に相談に乗ってもらい決めました。
インタビューの後編では、留学中の生活や修了されてから現在までのエピソードをご紹介する予定です。社会人留学に興味があるけど1歩を踏み出せない方や、学び直しに興味のある方、新しいことに挑戦したいと思っている方にぜひ読んでいただけると嬉しいです。お楽しみに!