COP28開催の今、知りたい!地球温暖化の素朴な疑問に答えます
気候変動対策を話し合う国連の会議「第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)」が、11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されています。
「国連の会議」と聞くと、世界規模の話で自分の生活にはあまり関係なさそう、と感じるnote読者の方もいるかもしれません。でも、思い出してほしいんです!今年の夏の暑さを…あの酷暑の背景には、地球温暖化の影響があるんです。地球温暖化は遠いどこかの国での話ではなく、私たちの生活に、今まさに直接影響を及ぼしているものなのです。
少し難しそうな話だからこそ、noteを通じて社内外の皆さんにお届けしたい。今回の日本気象協会 公式note「Harmonability style」では、気象・環境分野のプロフェッショナルの視点から、地球温暖化に関する素朴な疑問に答えます。
― COP28では、どんなことが話し合われるのでしょうか?
温暖化対策について世界の国々が協議する「COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)」。28回目となる「COP28」の主なテーマは、温暖化を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標の達成に向けた進捗状況の確認です。世界各国はパリ協定の下で自国の排出削減目標を定めていますが、それらがすべて実行されたとしても2.5~2.9℃温暖化が進んでしまうことが既にわかっており、対策の強化が急がれます。
今回のCOPでは、進捗状況を確認したうえで、1.5℃目標をどう実現させていくかについて協議されます。目標達成には2050年排出量ネットゼロが必須であり、IEA(国際エネルギー機関)は先進国に2030年石炭火力全廃を提言していますが、日本はG7で唯一石炭火力廃止を明言していません。石炭依存から脱却し、再エネの水準を引き上げるといった具体的な対策を示し、削減目標を引き下げることが求められています。
― 「気候変動」と「地球温暖化」は同じものですか?違いは何でしょうか?
「地球温暖化」は、人間が地中に眠っていた化石燃料を掘り出して莫大なエネルギーを使うようになったために、CO2などによる温室効果で地球が徐々に温暖化していることを指します。
一方、「気候」は、太陽活動の変化やエルニーニョ現象などによって人間の影響がなくても変動するものなのですが、今直面している「気候変動」は、これに加えて温暖化を引き起こしている人間活動が気候システムに甚大な影響を与えた結果起こっているもので、世界の各地では温暖化だけでなく、人類がこれまで経験したことのない猛暑、干ばつ・大雨、季節の異変などが起きています。
― 日本で暮らす人々は、その他の国々で暮らす人々と比べて地球温暖化への危機感が低いのでしょうか?
科学は、排出量を削減し脱温暖化しなければ人類は存続が危ぶまれるほどの危機に直面すること、また先を予見して対策を打てばある程度リスクを低減できることを示しています。そのことを知って行動するかどうかで世界の未来も個人の未来も全く異なるものになるでしょう。
米国のあるシンクタンクの調査で地球温暖化による個人への影響についてたずねたところ、他の先進国では「非常に懸念している」人の割合が急増しているのに、日本だけが大きく減っていました。同じような傾向は他の調査でも示されており、日本の、特に若い世代で危機感が低いという結果が出ている調査もあります。「まあ何とかなる」や「自分の力ではどうにもならない」といった考えではなく、誰ひとり温暖化問題に無関係ではいられない、という現実に向き合う必要があるのではないでしょうか。
― 今年の夏は記録的な暑さとなりました。夏の暑さや大雨などと、地球温暖化は関係しているのでしょうか?
「温暖化が進行した現実の地球」と「温暖化しなかった仮想の地球」のシミュレーションを作成し比較すれば、猛暑や大雨の発生確率が温暖化によってどれだけ変わっていたかを推定できます。この手法で2023年の夏が検証された結果、7~8月の記録づくめの高温は地球温暖化がなかったら起こりえなかったことがわかりました。また、温暖化は、線状降水帯の頻度の増加や、7月の九州北部の大雨の総雨量の増加も引き起こしていたことがわかってきました。この夏の異常さは地球温暖化が大きく影響していたといえるでしょう。
― このまま地球温暖化が進むと、私たちの生活のあらゆることが変わっていくのかもしれません。具体的に、どのような生活になる可能性があるのでしょうか?
今年の夏も外出をためらうほど暑い日が多かったですが、温暖化が進めば、人間の体が耐えられる限界を超える暑さが増えると予測されています。外出がさらに困難になるだけでなく、貧困などでエアコンが使えない人や屋外で働く人(農業、建設業、運送業など)にとっては、命に関わる問題になるといっても過言ではありません。
また、暑さによる電力需給ひっ迫、熱中症増加による救急搬送困難、高温による線路の変形による鉄道の運休が多くなるかもしれません。温暖化はさらに、大雨の激化、干ばつの増加等も引き起こします。水不足による取水制限や、海外も含む農作物の不作による価格高騰や食料不足にも備えなければならなくなるでしょう。
― 地球温暖化を止めるために、企業にできることを教えてください
企業の活動が持続可能であるためには、それを支える環境が持続可能でなければなりません。企業は、自社および関連サプライチェーンの活動の省エネ・再エネ導入による脱炭素化に取り組むだけではなく、社会の脱炭素に貢献する製品やサービスを提供することでも大きく貢献できます。もはや、「地球にやさしく」レベルの取組みでは持続不可能な状況を抜け出せないところまできています。企業にも本気の取組みが求められています。
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日本気象協会は気象に関する専門的知識を背景に、気候変動問題に取り組んでいます。これまでの豊富な経験を活かし、気候変動の影響予測・緩和策・適応策に関する調査・研究を幅広く実施し、企業活動に伴う気候変動リスク分析を行うほか、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」の国内支援事務局なども担当しています。
このIPCCの第6次評価統合報告書の内容などを解説したコラム『「沸騰」する地球、人類の選択ーIPCCの警告(全3回)』を日本気象協会コーポレートサイトの「サステナビリティ」ページで公開しています。
気候変動対策のキーワードとなる「緩和」と「適応」については、こちらのnote記事で解説しています。
日本気象協会は「Harmonability(ハーモナビリティ):自然界と調和した社会の創生」という企業ミッションを掲げています。「Harmonability」は「Sustainability(サステナビリティ):持続可能性」と共通する軸を持っていると私たちは考えています。これ以上地球温暖化を進めないために、個人にできること、企業や団体にできることをこれからも日本気象協会は考え、発信しつづけていきます。私たちと一緒に「気候変動に具体的な対策を」につながる一歩を踏み出していただけたら、何よりです。