【博士が活躍する日本気象協会】大学での経験が今の仕事に直接つながっている
「博士課程に進むと就職が難しい」…そんな話を聞いたことがありますか?昨年夏には、博士の就職支援を強化するために政府が企業向けに手引を作成する、という報道もありました。
文部科学省の「令和6年度学校基本調査」によると、博士課程を修了した学生のうち、就職者の割合は70.0%で、前年度より0.2ポイント低下しているとのことです。
昨今のグローバル市場で企業が高い競争力を持ってビジネスを推進していくためには、最先端の専門知識と高度な技術力を持つ人材が欠かせません。日本気象協会ではそれぞれの専門性を生かしながら、博士課程を修了したメンバーが大勢活躍しています。大学院を卒業して入社した人もいれば、日本気象協会で働きながら博士号を取得する人も珍しくありません。
そこで今回の「Harmonability style」では、社会人になってから博士号を取得し、日本気象協会で活躍するプロフェッショナルを紹介します。第一弾として、日本気象協会が寄付講座として設置している「京都大学防災研究所」で学び、現在は国の研究プロジェクトで水防分野の技術開発に携わっている道広(みちひろ)さんにお話を伺いました。
Q. 取得した博士号の概要を教えてください
京都大学に博士論文を提出し、博士(工学)の学位を2014年11月に取得しました。論文題目は「流域スケールの温暖化影響評価に資する全球気候モデル解析手法および気候変動情報データベースの開発」です。
Q. 博士号を取得しようと決意したきっかけは何ですか?
京都大学防災研究所に日本気象協会の寄附研究部門(水文環境システム(日本気象協会)研究領域[名称は当時のもの] )が2009年10月に設立され、そこの特定助教として3年間研究を行いました。その研究内容を博士論文にまとめて提出した「論文博士」であり、いわゆる社会人博士とは異なります。
Q. 大学へはどのようなスケジュールで通いましたか?
寄附研究部門は日本気象協会の初めての試みとして、京都大学防災研究所に設立されました。私自身は、いったん日本気象協会を退職する形となり、京都大学に3年間勤務しました。特定助教として大学で研究していたため、3年間、他の大学教員と同様な形で研究(勤務)しました。この点は、社会人博士と大きく異なり、研究に集中できる環境でした。
Q. 研究テーマの概要と、なぜそのテーマを選んだのかを教えてください
研究テーマは気候モデルによる予測データを使って流域の影響評価を行う、というものでした。当時、世界各国の気候モデルのデータを使った温暖化研究が活発になってきた時期であり、興味がありました。日本気象協会で携わってきた分野において、日本国内への影響を研究しました。
研究は、仕様書で内容がある程度定められている「業務」とは異なり、自分で課題やゴールを設定する必要があります。自由度が大きい分、何をすべきか、どこまですべきか、を決めるのが難しかった記憶があります。
Q. 大学での研究生活で最も楽しかったこと、やりがいを感じたことは何ですか?
最先端の研究を実施している大学の先生方と交流できたことは、大変貴重な経験でした。いい意味で、権威ある方々と率直な議論を躊躇なくできるようになりました。ただし、寄附研究部門は学生がいないため、そこは少し残念でした。
Q. 現在の所属部署の業務内容と、ご自身の普段のお仕事の内容について教えてください
現在、社会・防災事業部に所属しており、ダム分野の業務(気象情報の提供や予測システムの構築)を中心に携わっています。国の研究プロジェクト(SIPやBRIDGE)では、日本気象協会の研究代表として参画しており、アンサンブル予測を活用したダムの高度運用に関する検討を行っています。
Q. 博士課程での学びや経験が、日本気象協会の仕事で役立っていると感じることはありますか?
先ほど紹介した国の研究プロジェクトは、寄附研究部門に所属していた当時に一緒に京都大防災研究所で研究していた先生がリーダーを務めています。当時の関係性が今も続いており、大学での経験が直接今の仕事に役立っています。
Q. ご自身の研究分野は、今後社会でどんな風に役立っていくと考えていますか?
学位を取得した研究は気候変動でしたが、現在はアンサンブル予測を用いたダム運用の高度化に取り組んでいます。ここ数年で現場に実装される予定であり、現在進行形で社会実装が進んでいます。
Q. 学びを継続し、アップデートするために取り組んでいることはありますか?
建設・土木の業界には、CPDという制度があり、技術者の継続教育を推奨しています。この制度を使いながら、スキルや知識の継続的な習得に取り組んでいます。
Q. 博士号を持つ人材が企業で活躍するにはどうしたらよいか、アイデアが思いつくようでしたら教えてください
寄附研究部門に所属していた当時(2010年ごろ)も、博士課程に進む日本人学生は減少しており、留学生の割合が多かった印象です。ポスドクの研究者は特定プロジェクトで有期雇用されることが多く、条件は厳しいと思います。企業に所属しながら研究的な活動をするのが一つの道かと思います。
私自身は大学に3年間常勤していたため、いわゆる社会人博士とは状況が異なりますが…博士号の取得を含め、仕事と学業の両立は周囲の協力と自身の努力が必要ではありますが、意欲がある人はぜひ挑戦して欲しいと思います。
道広さんが今後注力していきたいことは「後進の育成」。「分野によっては若手への技術継承が課題だと感じているため、後進育成に力を入れたいと思っています。」と語ってくれました。
また日本気象協会の印象を尋ねたところ「比較的オープンで多様性が尊重される社風。取り組んでいる分野も幅広いため、色々と個性的な人が多いのが魅力です。」とのコメントをいただきました。それぞれの専門性を生かしながら、研究分野への興味・関心を発展させ、幅広い社会課題の解決につなげていける環境があるのが日本気象協会の強みです。
学びを深めることは、社会人になってからでも可能です。日本気象協会は民間の気象会社であり研究機関ではありませんが、学びをビジネスに還元し、社会実装していくダイナミックさを体験することができます。
日本気象協会公式note「Harmonability style」では、さまざまな専門性を持ったプロフェッショナルのエピソードを紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
第二弾では、現在社会人博士課程に挑戦中のメンバーをご紹介予定です!次回もご期待ください。